2025年6月下旬、富士フイルムから注目のコンパクトデジタルカメラ「FUJIFILM X half」(以下、X half)が登場する。往年のハーフサイズカメラのコンセプトを現代に蘇らせ、フィルム写真の撮影体験をデジタルで再構築しようという意欲的な一台だ。
果たしてこのカメラは、我々の写真ライフにどのような新しい風を吹き込むのだろうか? 本記事では、X halfの魅力と購入前に知っておきたい懸念点を、ユーザーレビューを交えながら深掘りしていく。
富士フイルム X half 主要スペック

まずは、X halfの主なスペックを確認しておこう。
項目 | 仕様 |
---|---|
製品名 | FUJIFILM X-HF1 (X half) |
センサー | 1.0型 裏面照射CMOSセンサー、有効画素数 約1774万画素 |
レンズ | フジノン単焦点レンズ 10.8mm F2.8 (35mm判換算:32mm相当) |
アスペクト比 | 3:4 (メイン) |
画像フォーマット | JPEGのみ |
ファインダー | 縦型光学ファインダー (OVF)、逆ガリレオ式、視野率 約90%、倍率 約0.38倍 |
液晶モニター | 2.4型 タッチパネル付きTFTカラー液晶モニター、3:4アスペクト比、約92万ドット |
サブ液晶モニター | あり (フィルムシミュレーション表示用) |
フレームアドバンスレバー | あり |
「2in1」機能 | あり |
「フィルムカメラモード」 | あり |
フィルムシミュレーション | 13種類 (REALA ACEを含む) |
新フィルター | ライトリーク、ハレーション、期限切れフィルム |
質量 | 約240g (バッテリー、メモリーカード含む) |
外形寸法 | 約105.8mm (幅) × 64.3mm (高さ) × 45.8mm (奥行き) |
記録メディア | SD/SDHC/SDXCメモリーカード (UHS-I対応) |
ワイヤレス通信 | Wi-Fi、Bluetooth® Ver. 5.2 |
バッテリー | NP-W126S、撮影枚数 約880枚 (OVF使用時) |
フラッシュ | 内蔵LEDフラッシュ、コールドシュー |
価格 | オープン価格 (国内市場想定価格:11万円前後、849.95 USドル) |
発売時期 | 2025年6月下旬 (日本国内) |
X halfの核心:「楽しさ」を追求したアナログ体験
X halfの最大の魅力は、スペック競争とは一線を画し、「楽しさ」を最優先に設計されている点だろう。フレームアドバンスレバーの搭載、撮影結果がすぐには見られない「フィルムカメラモード」、そして富士フイルムならではの多彩なフィルムシミュレーション。これらは、効率や利便性とは異なる、アナログカメラが持っていた「手間」や「待つ時間」の価値を再発見させてくれる。
1. ハーフフレームコンセプトと縦位置撮影へのこだわり
X halfは、3:4というアスペクト比を基本とし、縦位置撮影に特化している。これはフィルム時代のハーフサイズカメラに着想を得たもので、カメラを横に構えても自然と縦長の構図になる。このユニークなフォーマットのために、縦型の光学ファインダー(OVF)と2.4インチの縦型液晶モニターが搭載されている。スマートフォンでの縦長コンテンツに慣れ親しんだ世代には、新鮮かつ直感的に扱えるかもしれない。
2. 触感が楽しいフレームアドバンスレバー
フィルムカメラを象徴するフレームアドバンスレバーは、X halfの体験の中核だ。単なる飾りではなく、後述する「2in1」機能の起動や「フィルムカメラモード」での撮影ごと操作が必須となる。カチリという操作感は、デジタルカメラでは味わえないアナログならではの心地よさがある。
3. ワクワク感を再現する「フィルムカメラモード」
このモードでは、フィルムシミュレーションと撮影枚数(36枚、54枚、または72枚)を選ぶと、撮影中は液晶モニターで画像を確認できない。「フィルムロール」を撮り終え、専用アプリで「現像」するまで結果はお預けだ。この「待つ時間」が、フィルム写真ならではの期待感やワクワク感をデジタルで再現してくれる。
4. 2枚で物語を紡ぐ「2in1」機能
縦構図で撮影した2枚の写真(または動画)を1つの作品として保存できる「2in1」機能も面白い。撮影の合間にフレームアドバンスレバーを操作することで起動し、組み合わせることで新たな物語性を生み出すことができる。専用アプリで編集も可能だ。
5. 富士フイルムならではの色彩と新たなフィルター
定評のあるフィルムシミュレーションは、「REALA ACE」を含む13種類を搭載。さらに、「ライトリーク」「ハレーション」「期限切れフィルム」といった、フィルム特有の偶発的な現象を再現する新しいクリエイティブフィルターも加わった。これらは、デジタル写真が追求してきた完璧さとは対極にある「味」を表現するのに役立つだろう。
購入前に知っておきたい懸念点
魅力的なコンセプトを持つX halfだが、いくつかの懸念点も指摘されている。
1. 価格設定と質感
国内市場での想定価格は約11万円前後(850USドル)。この価格に対して、外装の「プラスチック感が強い」という声が一部ユーザーから上がっている。軽量化(約240g)とのトレードオフかもしれないが、プレミアム感を期待するユーザーにとっては少し物足りないかもしれない。「トイカメラのノリなら6万円台」といった意見も見られる。
2. AF性能とUIのレスポンス
オートフォーカス(AF)はコントラストAFを採用しているが、レビューでは「ラグがある」「明らかに遅い」といった評価が目立つ。特に動体撮影には不向きとの声が多い。また、タッチスクリーンを中心としたユーザーインターフェース(UI)についても、「反応が遅い」「タップを認識するのに数回かかることがある」といった批判的な意見が寄せられている。これらの点は、撮影のテンポを重視するユーザーにとってはストレスになる可能性がある。
3. 画質:JPEGオンリーと1.0型センサー
X halfはRAW形式での記録に対応しておらず、JPEG出力のみ。これは、後からじっくり編集したいユーザーにとっては大きな制約となるだろう。センサーは1.0型CMOSセンサー(有効約1774万画素)を搭載。画質については、「色の再現性は高い」という評価がある一方で、「写真はそれほど良くない」「スマートフォンの方が優れている可能性も」といった厳しい意見も見られる。暗所性能も「素晴らしいとは言えないが許容範囲」とされている。画質至上主義のカメラではないことを理解しておく必要がある。
4. 動画機能
フルHDでの縦構図動画撮影に対応しているが、画質は「スマートフォン以下」との声もあり、本格的な動画撮影には向いていないようだ。あくまでスナップ的な記録やソーシャルメディア向けのカジュアルな用途と割り切るべきだろう。
X half はどんな人にオススメか?
X halfは、万能なカメラではない。しかし、そのユニークなコンセプトは特定の人々にとっては非常に魅力的に映るだろう。
- 写真撮影の「プロセス」を楽しみたい人:効率や結果だけでなく、一枚一枚を大切に、じっくりと向き合いたい人。
- アナログの「手触り」を求める人:フレームアドバンスレバーの操作感や、フィルムを選ぶような感覚を楽しみたい人。
- 富士フイルムの色が好きな人:多彩なフィルムシミュレーションで、JPEG撮って出しの美しい写真を手軽に楽しみたい人。
- 人とは違うカメラを持ちたい人:レトロなデザインと縦位置撮影という個性的なスタイルに惹かれる人。
- ソーシャルメディアでユニークな表現をしたい人:「2in1」機能や新しいフィルターで、目を引くコンテンツを作りたい人。
一方で、以下のような人にはあまり向いていないかもしれない。
- 最高の画質を求める人:RAW現像で細部までこだわりたい、あるいは高感度性能を重視する人。
- 動きの速い被写体を撮りたい人:スポーツや子供、ペットなど、俊敏なAF性能が不可欠なシーン。
- コストパフォーマンスを重視する人:スペックに対して価格が高いと感じる人。
競合としては、リコーGRシリーズや富士フイルムX100VIなどが挙げられるが、これらはより「本格的な」写真撮影ツールとしての性格が強い。X halfは、むしろスマートフォンの手軽さと、より深い写真体験の中間を埋めるような存在と言えるかもしれない。
まとめ:X halfが提案する新しい写真の楽しみ方
富士フイルム X halfは、スペックシートの数字だけでは語れない魅力を持ったカメラだ。それは、写真撮影における「体験」そのものに価値を見出すという、ある意味で現代へのアンチテーゼとも言える提案だ。
確かに、AF性能やUIのレスポンス、質感など、改善を期待したい点はある。価格設定も、もう少し手頃であれば、より多くの人がこのユニークな体験に触れられたかもしれない。
しかし、X halfが提示する「不便益」とも言えるアナログ的な撮影プロセスは、デジタルに慣れきった我々に、写真と向き合う新たな喜びを与えてくれる可能性がある。このカメラの成否は、単なる目新しさで終わるのではなく、その「楽しさ」がどれだけ持続的な価値としてユーザーに受け入れられるかにかかっているだろう。
購入を検討するなら、まずは店頭などで実際に触れてみて、その操作感やコンセプトが自分に合うかどうかを確かめてみることをお勧めする。X halfは、あなたの写真ライフに新しい刺激を与えてくれる一台になるかもしれない。
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