序章:スバルBRZ – FRスポーツの系譜

スバルBRZは、富士重工業(現SUBARU)がトヨタ自動車と共同開発し、2012年に市場に投入したFR(フロントエンジン・リアドライブ)レイアウトのスポーツカーだ 。スバルにとっては、水平対向エンジンを縦置きするFRプラットフォームは新たな挑戦であり、市場に新鮮な驚きをもって迎えられた。トヨタからは姉妹車「86(ハチロク)」が同時期に発売され、両車は日本のスポーツカー市場の再活性化に大きく貢献した。
BRZの開発コンセプトは一貫して「誰もが愉しめる究極のFRピュアスポーツカー」である 。これは、絶対的な速さや豪華さではなく、クルマを操る根源的な楽しさ、ドライバーとクルマの一体感を追求する思想を示す。本稿では、初代BRZ (型式:ZC6)から二代目BRZ (型式:ZD8)に至るまでの歴代モデルの情報を、詳細なスペック、グレード構成、マイナーチェンジの変遷、そして専門家やオーナーによるレビュー記事を交えながら網羅的に解説する。
各モデルのデザイン、走行性能、安全装備の特徴と進化を明らかにすることで、スバルBRZという稀有なスポーツカーの魅力を深く掘り下げ、読者の理解の一助とする。
第一章:初代BRZ (ZC6) – ピュアハンドリングの追求

誕生と開発コンセプト
初代スバルBRZ (ZC6型)は、2012年3月に発表され、スバルにとっては久々の本格FRスポーツカーとして市場に投入された 。このモデルは、トヨタ自動車との共同開発プロジェクトの成果であり、スバルが生産を担当し、トヨタからは「86」として販売された 。基本骨格を共有しつつも、サスペンションのセッティングや内外装デザイン、装備内容において両ブランドの個性が反映され、それぞれ異なる乗り味とキャラクターが与えられた点は特筆すべきだ 。
この共同開発体制は、スポーツカーというニッチな市場において、開発コストを分担しつつ両社の強みを活かすという合理的な判断であり、結果として手頃な価格で質の高いFRスポーツカーを市場に提供することを可能にした。
BRZの核心技術は、スバル伝統の水平対向エンジンをフロントアクスルよりも後方に、そして可能な限り低く搭載する「超低重心パッケージング」にある 。このエンジンレイアウトは、FR駆動方式と組み合わせることで、前後重量配分の最適化と慣性モーメントの低減に貢献し、卓越したハンドリング性能の基盤となった 。
開発思想として掲げられたのは「Pure Handling Delight – 新しい次元の運転する愉しさ」である 。これは、日常のドライブからサーキット走行まで、ドライバーがクルマと一体となり、意のままに操る喜びを純粋に追求するという意志の表れであった 。当時のスポーツカー市場が高出力化・高価格化・複雑化する傾向にあった中で、BRZはシンプルで軽量、そして何よりも運転の楽しさを重視するモデルとして、明確な個性を放っていた。
このコンセプトは、純粋なドライビングプレジャーを求める多くのエンスージアストから支持を集めることとなる。
主要諸元とグレード展開
初代BRZ (ZC6)は、2012年3月の発売開始から2020年7月の受注終了まで、約9年間にわたり販売されたロングセラーモデルだ 。
搭載されたエンジンは、新開発のFA20型2.0L水平対向4気筒DOHCエンジンである 。デビュー当初のスペックは、最高出力200ps/7000rpm、最大トルク205N・m(20.9kg・m)/6400~6600rpmを発揮した 。このエンジンには、トヨタの直噴技術「D-4S」(ダイレクトインジェクション・4ストロークガソリンエンジン・シューペリアバージョン)が組み合わされ、自然吸気ながらリッターあたり100馬力という高出力を達成し、優れたレスポンスと経済性を両立させていた 。
ボディサイズは、2012年モデルの「S」グレードで全長4240mm × 全幅1775mm × 全高1300mmとコンパクトにまとめられ、車両重量も同グレードの6速MT車で1230kgと軽量であった 。駆動方式はもちろんFRで、トランスミッションにはショートストロークの6速マニュアルトランスミッション(MT)と、パドルシフト付きのE-6AT(6速オートマチックトランスミッション)が用意された 。
グレード構成は、ユーザーの多様なニーズに応えるべく、幅広く設定されていた。
- RA Racing (アールエーレーシング): モータースポーツへの参戦を前提とした競技用ベース車両。ロールケージや4点式シートベルト用アイボルト、空冷式エンジンオイルクーラー、専用ブレーキダクトなどを装備し、快適装備は簡略化されていた 。
- R Customize Package (アールカスタマイズパッケージ): こちらもカスタマイズベースとして、装備を最小限に抑えたグレード 。
- R (アール): 標準グレードで、「R Customize Package」に基本的な快適装備や内外装の加飾を追加したモデル 。
- S (エス): 上級グレード。17インチアルミホイール、トルセンLSD、フルオートエアコン、キーレスアクセス&プッシュスタート、本革巻ステアリングホイール&シフトノブなどを標準装備し、快適性とスポーツ性を高次元でバランスさせていた 。発売当初、受注の約78%を占めるほどの人気グレードであり、多くのユーザーがBRZに単なるスパルタンなスポーツ性だけでなく、日常的な使い勝手やある程度の快適性も求めていたことがうかがえる 。
- GT (ジーティー): 2016年11月に追加設定された最上級グレード。ZF社製SACHS(ザックス)ダンパーやbrembo(ブレンボ)製ベンチレーテッドディスクブレーキシステム、専用デザインの17インチアルミホイール(スーパーブラックハイラスター塗装)、アルカンターラと本革を組み合わせたシート(フロントシートヒーター付)などを標準装備し、走行性能と質感をさらに高めた 。
- STI Sport (エスティーアイスポーツ): 後期モデルで「GT」と並ぶ最上級グレードとして設定。スバルテクニカインターナショナル(STI)による専用チューニングが施された足回り(SACHSダンパー、コイルスプリング)、brembo製ブレーキ、内外装のSTI専用パーツを装備し、より洗練されたスポーティな走りと特別な所有感を提供した 。
この多様なグレード展開は、BRZが持つ「ピュアスポーツ」という核を維持しつつ、より幅広い層のドライバーにアピールするための戦略であった。特に「S」グレードの初期の人気や、後に「GT」や「STI Sport」といった高付加価値グレードが追加されたことは、市場がBRZに対して単なる素材としての魅力だけでなく、完成された高性能スポーツカーとしての価値も求めていたことを示唆する。
表1:初代BRZ (ZC6) 主要グレードスペック比較 (2012年-2016年マイナーチェンジ前の一例)
グレード名 | 型式 | エンジン型式 | 最高出力 | 最大トルク | トランスミッション | 車両重量 (MT/AT) | タイヤサイズ | 主要装備例 (Sグレード) | 新車時価格帯 (発売時) |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
R | DBA-ZC6 | FA20 | 200ps (147kW) / 7000rpm | 20.9kg・m (205N・m) / 6400~6600rpm | 6MT/6AT | 1210kg/1230kg | 205/55R16 | マニュアルエアコン、16インチアルミホイール、プロジェクター式HIDヘッドランプ | 約240万円~ |
S | DBA-ZC6 | FA20 | 200ps (147kW) / 7000rpm | 20.9kg・m (205N・m) / 6400~6600rpm | 6MT/6AT | 1230kg/1250kg | 215/45R17 | フルオートエアコン、17インチアルミホイール、トルセンLSD、本革巻ステアリング・シフトノブ、アルミパッド付スポーツペダル、キーレスアクセス&プッシュスタート、6スピーカー、フロントフォグランプ、ステンレス製サイドシルプレート | 約279万円~ |
RA Racing (受注生産) | DBA-ZC6 | FA20 | 200ps (147kW) / 7000rpm | 20.9kg・m (205N・m) / 6400~6600rpm | 6MTのみ | 1190kg | 205/55R16 | ロールケージ取付用補強材、4点式シートベルト用アイボルト、空冷式エンジンオイルクーラー、専用ブレーキダクト、マニュアルエアコン(ヒーターのみ)、スチールホイール | 約286万円~ |
Google スプレッドシートにエクスポート
注:上記は代表的なグレードと時期のスペックであり、年次改良により細部が異なる場合がある。価格は消費税込みの参考価格だ。出典:
初代BRZ (ZC6) は、その9年近い販売期間において、スポーツカーとしては異例の長寿モデルとなった。これは、軽量FRスポーツという基本コンセプトの普遍的な魅力に加え、後述する度重なる改良や特別仕様車の投入によって、市場の関心を繋ぎ止める努力が続けられた結果だ。
マイナーチェンジと改良の歴史
初代BRZ (ZC6) は、2012年のデビューから2020年の生産終了まで、数度にわたる改良が施された。特に2016年に行われた大幅なマイナーチェンジは、その内容から「ビッグマイナーチェンジ」と称されるほど多岐にわたるものであった 。
2016年7月/8月 ビッグマイナーチェンジ (D型~) この改良は、BRZの走行性能と質感を大きく向上させることを目的としていた 。
- エクステリア: フロントバンパーのデザインが一新され、航空機のウィングチップ(翼端板)をモチーフとした造形が採用された。これにより、より低くワイドなスタンスが強調され、空力性能の向上も図られた。ヘッドランプ、リアコンビランプ、フォグランプ(Sグレード以上)がフルLED化され、先進性と被視認性が向上。新デザインの17インチアルミホイールや、よりアグレッシブな形状のリアスポイラーも採用され、スポーティな印象が一層高められた 。
- インテリア: 内装の質感が大幅に向上した。新デザインの小径ステアリングホイール(φ365mm→φ362mm)はグリップ性に優れ、操作フィールを高めた。Sグレード以上では、メーターパネルバイザーやインストルメントパネルにレザー調素材(一部レッドステッチ入り)が採用され、高級感を演出。また、4.2インチのマルチインフォメーションディスプレイがメーター内に新設され、水温、油温、電圧、Gモニター、パワーカーブ/トルクカーブ、ストップウォッチ(ラップタイム計測機能)など、スポーツ走行に役立つ多彩な情報を表示できるようになった。タコメーターの指針が垂直ゼロ指針となったのも特徴だ 。
- パワートレイン (MT車): FA20エンジンは、吸気マニホールドの材質変更(樹脂製→アルミ製)とポート径拡大、エキゾーストマニホールドの等長等爆化と大径化、燃料ポンプの改良、ピストンのショットピーニング加工、シリンダーブロックの剛性強化(リブ追加)など、多岐にわたる改良が施された。これにより、最高出力は207ps (+7ps)、最大トルクは212N・m (+7N・m)へと向上。特に中低速域のトルク特性が改善され、従来モデルで指摘されていた「トルクの谷」が解消され、よりリニアで力強い加速フィールを実現した。ファイナルギア比も4.1から4.3へとローギアード化され、全域での加速性能が向上した 。
- シャシー・足回り: ボディ剛性が大幅に強化された。具体的には、フロントのストラットタワーバー取り付け部の板厚アップ、トランスミッションメンバーのクロスメンバー部板厚アップ、リアホイールハウス内への補強材(リアエプロンアウター)追加、リアパネルの板厚アップなどが挙げられる。サスペンションも見直され、コイルスプリングのばね定数変更、ダンパーの減衰力特性の最適化、リアスタビライザーの大径化などが行われた。これらの改良により、操縦安定性と応答性が向上し、よりしなやかで上質な乗り心地も両立された 。
この2016年のビッグマイナーチェンジは、単なるフェイスリフトに留まらず、エンジン、シャシー、内外装の細部に至るまで手が加えられたものであり、BRZの商品力を大幅に高めるものであった。初期モデルのユーザーや評論家から指摘されていた点を真摯に受け止め、改善を図ったスバルの姿勢がうかがえる。
2017年9月 一部改良 (E型) 車体前後のパーツ(リアホイールアーチ前部など)を補強することで、さらなるボディ剛性の向上が図られた。また、利便性向上のため、方向指示器のワンタッチ機能(レバーを軽く操作すると3回点滅)や、ウェルカムライティング機能(アクセスキーを持って近づくとルームランプなどが点灯)が導入された 。
2018年9月 一部改良 (F型) リアホイールアーチ部分にエアロフィンが追加され、車体後方の空気の乱流を抑えることで空力性能を改善。サスペンションのダンパーチューニングが再度最適化され、接地性とコントロール性が高められた。これにより、ドライバーの意のままに操れるハンドリング性能に磨きがかかった。また、競技グレード「RA Racing」では、ロールケージの形状とシートベルトのデザインが変更された 。
これらの年次改良は、BRZがそのライフサイクルを通じて常に進化し続けるモデルであったことを示す。特に2016年の大幅改良は、BRZの走行性能と質感を新たなレベルに引き上げ、その後の小規模な改良は、その完成度をさらに高めるための「熟成」のプロセスであった。この継続的な改善努力が、ZC6型BRZが長期間にわたりスポーツカー市場で存在感を保ち続けた要因の一つである。
デザイン:エクステリアとインテリアの評価

初代BRZのデザインは、そのスポーツカーとしての素性を明確に体現していた。
エクステリア: 低く構えたワイド&ローなフォルムは、水平対向エンジンによる低重心パッケージングを視覚的にも表現しており、流れるようなルーフラインと力強く張り出した前後フェンダーが、FRスポーツならではの躍動感を強調していた 。フロントマスクは、ヘキサゴングリルとシャープなヘッドライトユニットが精悍な印象を与え、開口部の大きなフロントバンパーは冷却性能とアグレッシブなルックスを両立させていた。
レビューにおいては、そのスタイリングは概ね好評で「カッコイイ」という評価が多かった 。しかし、細部においては意見が分かれる部分もあった。例えば、フロントフェンダー後方に設けられたガーニッシュ(一部ではダミースリットと指摘)については、デザイン上のアクセントと捉える向きもあったが、機能性を持たない装飾であるとして残念がる声も一部で見られた 。これは、ピュアスポーツを標榜するクルマにおいて、機能に基づかないデザイン要素がエンスージアストの厳しい目にさらされることを示す。
2016年のビッグマイナーチェンジでは、エクステリアデザインも大きく刷新された。フロントバンパーは航空機のウィングチップをモチーフとした、よりエッジの効いたデザインとなり、ヘッドライト、リアコンビランプ、フォグランプがフルLED化されたことで、より現代的でシャープな印象へと進化した 。新デザインのアルミホイールやリアスポイラーも、アグレッシブさを増したスタイリングに貢献した。
インテリア: 初代BRZのインテリアは、ドライバー中心の設計思想が貫かれていた。低いドライビングポジションはクルマとの一体感を高め、操作系のレイアウトもスポーツ走行を意識したものとなっていた 。水平基調のインパネは視界の広さを確保し、タイトながらも大人4人が乗車可能な2+2のパッケージングは、限定的ながら実用性も考慮されていた。
初期モデルのインテリアに対する評価は、機能性を評価する声がある一方で、質感については価格相応、あるいは欧州のライバル車と比較すると見劣りするという意見が散見された 。特にプラスチックパーツの質感については、コストの制約を感じさせる部分もあった 。しかし、「スポーツカーなのだから質感は二の次」という、走りの本質を重視するユーザーからの擁護の声も存在した 。ペダルレイアウトに関しては、アクセルペダルがブレーキペダルに対して奥まった位置にあり、ヒール・アンド・トゥがしにくいという具体的な指摘もあった 。
2016年のマイナーチェンジでは、こうしたインテリアの質感に対するフィードバックに応える形で改良が施された。新デザインの小径ステアリングホイールは握り心地が向上し、メーターパネルバイザーやインストルメントパネルの一部にはレザー調素材やアルカンターラ(グレードによる)が採用され、随所に赤ステッチが施されるなど、視覚的にも触覚的にも質感が向上した 。4.2インチマルチインフォメーションディスプレイの採用も、機能性と先進性を高める要素となった。
それでもなお、オーナーレビューの中には、収納スペースの少なさや、一部の素材感に対する不満の声が残っていた 。これは、BRZがピュアスポーツカーとしての性格と、ある程度の日常性を両立させる上での難しいバランスを示す。スバルは、2016年の改良で質感向上を図ったものの、あくまで走りの本質を損なわない範囲でのアップデートに留めたとも解釈できる。
走行性能レビュー:専門家とオーナーの声
初代BRZ (ZC6) の走行性能は、多くの専門家やオーナーからそのハンドリングの良さが特に高く評価された。
ハンドリング: 「超低重心パッケージング」の恩恵は絶大で、レビューでは一様にノーズの軽さ、車体全体の軽快さが指摘される 。ステアリング操作に対する応答は素直で、コーナーリングは極めて気持ちが良いと評された 。FRレイアウトと低い重心が生み出す、クルマを意のままに操る感覚は、BRZの最大の魅力であった。 2016年のビッグマイナーチェンジでは、ボディ剛性の向上とサスペンションの再チューニングにより、ハンドリング性能はさらに磨かれた。ステアリング応答性はよりリニアになり、限界域でのコントロール性も向上。グリップ走行でもドリフト走行でも、ドライバーが自在にクルマを操れる懐の深さが増したと評価される 。
エンジンフィール: FA20型2.0L水平対向エンジンは、トヨタのD-4S技術との組み合わせにより、リッターあたり100馬力を達成し、高回転域までスムーズに吹け上がるフィーリングが特徴であった 。特に高回転域でのパンチ力やサウンドは、スポーツカーらしい高揚感を与えた。 しかし、マイナーチェンジ前のモデルでは、特に中低速域でのトルク不足、いわゆる「トルクの谷」を指摘する声が少なくなかった 。これが日常域での力強さの欠如として感じられる場面もあった。 2016年のマイナーチェンジ(MT車)では、吸排気系の改良とファイナルギアの変更により、この点が大幅に改善された。4000rpm以下の応答遅れが払拭され、より低い回転数から力強いトルクを感じられるようになり、日常域からスポーツ走行まで、より扱いやすく楽しいエンジン特性へと進化したと評価される 。 エンジンサウンドを演出する「サウンドクリエーター」については、その効果を好意的に捉える声がある一方で、不自然さやこもり音を指摘する意見もあり、評価は分かれた 。
乗り心地: 初期モデルの乗り心地は、スポーツカーとしては標準的であるものの、路面の凹凸を比較的ダイレクトに伝える硬めのセッティングであったという評価が一般的であった 。 2016年のマイナーチェンジでは、ダンパーの減衰力特性の変更やスプリングレートの見直しなど、足回りに大幅な改良が加えられた結果、しなやかさが向上し、より上質な乗り心地を実現したと評される 。ただし、依然としてスポーティな硬さを基調としているため、快適性重視のユーザーからは硬さを指摘する声も残った 。
0-100km/h 加速タイム: 初代BRZ (ZC6) の0-100km/h加速タイムは、複数の情報源で言及される。フランスの自動車雑誌「MagazineMotorsport」による実測値として、前期型MT車で7.6秒という記録がある 。また、後期型については7.4秒という数値も存在するが、これは主に二代目ZD8型(6.3秒)との比較で引き合いに出されることが多い 。これらのタイムは、クラスのスポーツカーとしては標準的なものであり、BRZが絶対的な加速性能よりも、ハンドリングバランスや運転の楽しさを重視していたことを示す。
カスタマイズ性: BRZは、アフターパーツ市場が非常に活発で、オーナーが自身の好みに合わせてカスタマイズを楽しむベース車両としても高い人気を博した 。特に初代ZC6型は、二代目ZD8型に比べて先進運転支援システム(アイサイト)の制約が少ないため、車高調整やエンジンチューニングといったカスタマイズの自由度が高いという意見も見られる 。
専門家によるレビューでは、BRZのハンドリング性能やエンジンの高回転域でのフィーリングといった動的な側面が詳細に分析される傾向がある。一方、オーナーレビューでは、これらの評価に加え、日常的な使用感、燃費、後席の広さ、内装の質感といった実用面や長期的な満足度に関する言及が多く見られる 。この両者の視点を組み合わせることで、BRZ (ZC6) の多面的な評価が可能となる。2016年の大幅改良は、専門家が指摘する初期の動的性能の課題(特にエンジンの中低速トルク)に応えつつ、オーナーが日常で感じる質感の向上にも寄与し、より完成度の高いスポーツカーへと進化した。
安全装備と燃費
安全装備: 初代BRZ (ZC6) は、スポーツカーとしての走行性能を追求しつつも、基本的な安全装備は充実していた。SRS運転席・助手席エアバッグに加え、SRSサイドエアバッグおよびSRSカーテンエアバッグを標準装備(一部グレード除く)。滑りやすい路面での車両安定性を確保するVDC(ビークルダイナミクスコントロール)、EBD(電子制御制動力配分システム)付ABS、坂道発進を補助するヒルスタートアシスト機能(後期MT車など)も搭載されていた 。 ボディ構造においては、高張力鋼板を効果的に配置した環状力骨構造を採用し、軽量化と高い衝突安全性能を両立させていた 。
しかし、初代BRZのライフサイクルを通じて、歩行者検知機能付き自動ブレーキやアダプティブクルーズコントロールといった、いわゆる先進運転支援システム(ADAS)は搭載されなかった 。スバルは当時、他の多くのモデルで独自の運転支援システム「アイサイト」を積極的に展開し、高い安全評価を得ていたが、BRZはその対象外であった。この点は、特にモデルライフ後半において、市場のADASに対する要求が高まる中で、BRZの数少ないウィークポイントとして指摘されることもあった。この背景には、トヨタとの共同開発という特殊性や、ピュアスポーツカーとしての性格を優先した開発方針があった可能性が考えられる。
燃費: 初代BRZ (ZC6) の燃費性能は、スポーツカーとしては比較的好評であった。
- カタログ燃費:
- 2012年モデルSグレード(MT):JC08モード燃費 12.4km/L
- 2016年モデルGTグレード(MT):JC08モード燃費 11.8km/L
- 後期型4BA-ZC6 Sグレード(MT):WLTCモード燃費 12.8km/L
- 実燃費:
- e燃費のデータによると、後期型MT車で平均12.84km/Lとカタログ値(JC08モード)を上回るケースも報告される一方、AT車では平均8.46km/Lと下回る傾向も見られた 。
- オーナーレビューでは、運転スタイルや走行状況によるものの、市街地走行で10km/L前後、郊外路や高速道路では13km/L~15km/L程度という報告が多く見られる 。
- 軽量な車体と効率的なFA20エンジン、そしてMTを選択することで、スポーツ走行を楽しみつつも、日常的な使用における経済性のバランスも取れていた。この点は、BRZが単なる趣味性の高いクルマに留まらず、ある程度のデイリーユースにも応えられた要因の一つだ。
初代BRZ (ZC6) は、そのピュアなハンドリング性能とカスタマイズの楽しさで多くのファンを魅了したが、安全装備の面では時代の変化とともに課題も抱えていた。一方で、燃費性能はスポーツカーとしては健闘しており、その魅力の一端を担っていた。
第二章:二代目BRZ (ZD8) – さらなる深化と洗練

デビューと開発コンセプト「誰もが愉しめる究極のFRピュアスポーツカー」
二代目スバルBRZ (型式:ZD8)は、2020年11月18日に米国でワールドプレミアされ、大きな注目を集めた 。日本国内では、2021年7月29日に正式発表され、同日より販売が開始された 。
開発コンセプトは初代ZC6型から一貫して「誰もが愉しめる究極のFRピュアスポーツカー」であり、その基本理念を継承しつつ、あらゆる面で性能を向上させ、走りの愉しさを一層際立たせることを目指して開発された 。これは、初代モデルが築き上げたFRスポーツとしての確固たる評価とファンベースを重視し、奇をてらうことなく本質的な進化を追求するスバルの真摯な姿勢の表れだ。
トヨタ自動車との共同開発体制も継続され、姉妹車としてトヨタ「GR86」が開発された 。初代同様、プラットフォームや主要コンポーネントを共有しつつも、サスペンションセッティングや内外装デザイン、装備などにおいて、スバルBRZとトヨタGR86はそれぞれ独自の個性を追求し、異なる走りの味付けが施されている。この戦略は、両ブランドのファン層やターゲットとする顧客の嗜好の違いに対応し、プラットフォーム全体の魅力を高める効果があった。
米国での先行発表は、スポーツカー市場としての北米の重要性を示唆する。グローバル市場で注目を集め、期待感を高めた上で国内市場に投入するという戦略は、この種の趣味性の高いモデルにおいては効果的であった。
主要諸元とグレード展開
二代目BRZ (ZD8) の最大のトピックは、新開発のFA24型2.4L水平対向4気筒DOHCエンジンの搭載である 。
- エンジン性能:
- 最高出力: 235ps (173kW) / 7000rpm
- 最大トルク: 250N・m (25.5kgf・m) / 3700rpm このFA24エンジンは、初代FA20エンジンの課題であった中低速域のトルク不足を解消し、より幅広い回転域で力強い加速と優れたレスポンスを実現することを主眼に開発された。最大トルクの発生回転数が初代の6400-6600rpmから3700rpmへと大幅に引き下げられたことは、日常域での扱いやすさとダイレクトな加速感の向上に大きく貢献する。
ボディサイズは、STI Sportグレード(3BA-ZD8)で全長4265mm × 全幅1775mm × 全高1310mmと、初代ZC6型から大きな変更はなく、コンパクトなFRスポーツクーペのプロポーションを維持する 。
グレード構成は以下の通り。
- R: ベースグレード。17インチアルミホイール(スーパーブラックハイラスター)、ファブリックシート(レッドステッチ)、本革巻ステアリングホイール、フルオートエアコンなどを標準装備 。
- S: 上級グレード。「R」の装備に加え、18インチアルミホイール(マットダークグレーメタリック)と215/40R18ハイパフォーマンスタイヤ、ウルトラスエード®/本革シート(レッドステッチ+レッドアクセント)、フロントシートヒーター、8スピーカーシステム、メーターバイザー(ブランノーブ®表皮巻)などを装備し、よりスポーティかつ上質な内外装とした 。
- STI Sport: 2023年9月に追加された最上級グレード。STIによる専用チューニングが施されたAstemo製SFRDフロントダンパーおよびリアダンパー、brembo製17インチベンチレーテッドディスクブレーキ(ゴールドキャリパー、メーカーオプション)、専用内外装(ダークメタリック18インチアルミホイール、クリスタルブラック・シリカ塗装ドアミラー、STIロゴ入りパーツ等)を装備し、BRZの究極のパフォーマンスと洗練性を追求したモデル 。
- Cup Car Basic: JAF公認競技への参戦を前提としたモータースポーツベース車両。6点式ロールケージや専用フロアマットなどを装備し、一部快適装備を簡略化している 。
- S 10th Anniversary Limited: BRZ誕生10周年を記念した特別仕様車(2022年7月発表、200台限定)。専用ボディカラー「WRブルー・パール」に合わせたブルーステッチの内装や記念エンブレム、マットブラック塗装の18インチアルミホイールなどを装備した 。
車両重量は、STI SportのMT車で1270kgと、排気量アップや装備充実にもかかわらず、初代からの大幅な重量増は抑制されている 。
表2:二代目BRZ (ZD8) 主要グレードスペック比較 (2023年9月モデル以降の一例)
グレード名 | 型式 | エンジン型式 | 最高出力 | 最大トルク | トランスミッション | 車両重量 (MT/AT) | タイヤサイズ | 主要装備例 (Sグレード比) | 新車時価格帯 (2024年7月時点) |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
R | 3BA-ZD8 | FA24 | 235ps (173kW) / 7000rpm | 250N・m (25.5kgf・m) / 3700rpm | 6MT/6AT | 1260kg~/1280kg~ | 215/45R17 | ファブリックシート、6スピーカー | 約332万円~ |
S | 3BA-ZD8 | FA24 | 235ps (173kW) / 7000rpm | 250N・m (25.5kgf・m) / 3700rpm | 6MT/6AT | 1270kg~/1290kg~ | 215/40R18 | ウルトラスエード®/本革シート、シートヒーター、8スピーカー、18インチアルミ | 約350万円~ |
STI Sport | 3BA-ZD8 | FA24 | 235ps (173kW) / 7000rpm | 250N・m (25.5kgf・m) / 3700rpm | 6MT/6AT | 1270kg~/1290kg~ | 215/40R18 | STIチューニングダンパー、専用内外装、(OP:bremboブレーキ) | 約378万円~ |
Cup Car Basic | 3BA-ZD8 | FA24 | 235ps (173kW) / 7000rpm | 250N・m (25.5kgf・m) / 3700rpm | 6MTのみ | 1290kg | – | 6点式ロールケージ、専用フロアマット | 約370万円~ |
Google スプレッドシートにエクスポート
注:上記は代表的なグレードと時期のスペックであり、年次改良により細部が異なる場合がある。価格は消費税込みの参考価格だ。出典:
二代目ZD8型では、初代ZC6型の課題であった動力性能の向上を明確に果たしつつ、グレード戦略においては初代の成功パターンを踏襲し、幅広いユーザー層にアピールするラインナップを維持する。
初代(ZC6)からの進化点
二代目BRZ (ZD8) は、初代ZC6型から見た目以上の大幅な進化を遂げている。その核心は、シャシー性能の抜本的な向上にある。
ボディ剛性向上: スバルグローバルプラットフォーム(SGP)の開発で培われた設計思想や技術ノウハウが、ZD8型のボディ開発にも応用された 。具体的には、インナーフレーム構造の採用や構造用接着剤の塗布範囲拡大により、ボディ骨格の結合が強化された 。 その結果、初代モデルと比較してフロントの横曲げ剛性は約60%、車全体のねじり剛性は約50%という大幅な向上を達成した 。この飛躍的な剛性向上は、ステアリング操作に対する応答性の向上、より軽快な動きの実現、そして旋回時のトラクション性能の向上に直結し、ドライバーの意のままに操れる感覚を一層研ぎ澄ませた 。
軽量化と低重心化: 高剛性化は一般的に重量増を伴うが、ZD8型ではルーフ、ボンネットフード、フロントフェンダーといったボディ上部の主要パネルに軽量なアルミ素材を積極的に採用した 。これにより、2.4L化されたエンジンや追加された安全装備による重量増を効果的に抑制しつつ、さらなる低重心化と前後左右の重量配分の最適化を実現した。これは、BRZの持ち味である運動性能を根幹から高める上で極めて重要な要素である。
空力性能の向上: エクステリアデザインは見た目の美しさだけでなく、空力性能の向上にも大きく貢献する。サイドシルスポイラーやフロントバンパーのエアインテーク、フロントフェンダー後方のエアアウトレット、リアホイールアーチのフィンなどは、車体周りの空気の流れを整流し、ダウンフォースを発生させることで接地性や高速安定性を高める機能的なアイテムである 。トランクリッド後端のダックテール形状のスポイラーも、効果的にダウンフォースを生み出すデザインとなっている 。
これらの進化は、ZD8型BRZが単にエンジンを大排気量化しただけでなく、シャシー性能全体を包括的に向上させることで、初代が掲げた「Pure Handling Delight」の理想をさらに高い次元で実現しようとしたスバルの開発姿勢を示す。SGPで培われた最新の知見を、FRスポーツという特殊なモデルにも惜しみなく投入した点は、スバルの技術力の高さを示す。
デザイン:エクステリアとインテリアの評価

二代目BRZ (ZD8) のデザインは、初代のDNAを受け継ぎつつ、より洗練され、力強い印象へと進化した。
エクステリア: エクステリアデザインは、低くワイドなスタンスを強調するヘキサゴングリル、そこからボンネット、フェンダーへと流れる力強い造形が特徴である 。絞り込まれたキャビンとダイナミックに張り出したフェンダーが、FRスポーツらしい躍動感と安定感を両立させる。フロントフェンダー後方のエアアウトレットやサイドシルスポイラー、リアアーチフィンといった空力パーツは、単なる装飾ではなく、走行性能向上に寄与する機能部品としてデザインに巧みに組み込まれている 。 ユーザーレビューでは、「カッコいい」「ロー&ワイドでグラマラス」「スポーツカーらしい」といった肯定的な評価が多数寄せられる 。特にSTI Sportグレードでは、専用のダークメタリック塗装18インチアルミホイールやクリスタルブラック・シリカ塗装のドアミラー、STIエンブレム、チェリーレッドのBRZレターマーク入りフルLEDヘッドランプなどが装備され、より特別感と高性能をアピールする外観となっている 。 初代ZC6型と比較して、より成熟し、細部の造形にもこだわりが見られるようになったという意見が多い。機能性を伴ったエアロダイナミクスデザインの積極的な採用は、見た目の迫力だけでなく、走行性能への期待感を高める要素となっている。
インテリア: インテリアは、ドライバーが運転に集中できる環境づくりが追求されている。水平基調のインストルメントパネルと低く抑えられたメーターバイザーは、良好な前方視界を確保する 。メーターには7インチTFTカラー液晶とLCD液晶を組み合わせた「BOXERメーター」が採用され、通常モードとサーキットモード(TRACKモード)で表示が切り替わり、多彩な車両情報をグラフィカルに表示する 。 Sグレード以上では、シート表皮にウルトラスエード®と本革のコンビネーションが採用され、ドアトリムやメーターバイザーにもブランノーブ®などの上質な素材が用いられるなど、初代からの質感向上が図られている 。STI Sportグレードでは、ブラック/ボルドーの専用カラーコーディネートやSTIロゴ入りパーツ、ダークキャストメタリック加飾などが施され、さらにスポーティで上質な空間を演出する 。 しかし、レビューの中には、初代からの質感向上は認めつつも、依然として価格帯を考えると質素に感じる部分があるという意見や、レッドステッチの多用がやや子供っぽく感じられるといった指摘も見られる 。また、コンパクトな2+2クーペという性格上、後席の実用性は限定的であり、収納スペースの少なさも初代から引き続き指摘される点である 。 ZD8型のデザインは、初代のスポーティなDNAを色濃く受け継ぎながら、より成熟し、力強さと機能美を追求したスタイルへと進化した。インテリアも質感向上への努力が見られるものの、スポーツカーとしての本質を優先した結果、一部実用面での割り切りは依然として存在する。
走行性能レビュー:専門家とオーナーの声
二代目BRZ (ZD8) は、走行性能において初代ZC6型から飛躍的な進化を遂げたと、多くの専門家およびオーナーから高く評価される。
エンジン性能 (FA24型): 最大の進化点として挙げられるのが、2.4Lに排気量アップされたFA24型エンジンである 。レビューでは、初代で指摘されていた中低速域のトルク不足が劇的に改善され、街乗りから扱いやすく、全域で力強い加速が得られるようになったとの声が多数を占める 。アクセル操作に対するレスポンスも向上し、高回転域までストレスなく滑らかに吹け上がるフィーリングは、NAエンジンならではの気持ちよさとして評価される 。3速ギアの守備範囲が広く、初代のようにパワーバンドを維持するために頻繁なシフト操作を強いられる場面が減ったという意見もある 。
ハンドリング: 初代から定評のあったハンドリング性能は、ZD8型でさらに磨きがかかった。大幅に向上したボディ剛性と最適化されたサスペンションセッティングにより、ステアリング操作に対する応答はよりリニアかつ正確になり、コーナリング時の安定性とコントロール性が格段に向上したと評される 。低重心設計と軽量ボディは健在で、ロール感の少ないクイックな回頭性は運転の楽しさを際立たせる 。限界域での挙動も穏やかでコントロールしやすく、初心者から上級者まで安心してスポーツ走行を楽しめるとの声が多い 。
乗り心地: スポーツカーとしては快適性が向上したという評価が一般的だ。サスペンションは引き締められているものの、路面からの衝撃を巧みにいなし、不快な突き上げ感が軽減されたとの意見が見られる 。ただし、グレードによって装着されるタイヤサイズ(Rグレードは17インチ、Sグレード以上は18インチ)やサスペンションセッティング(STI Sportは専用チューニング)が異なるため、乗り心地の印象には幅がある点に留意が必要だ。
0-100km/h 加速タイム: FA24エンジンの搭載により、0-100km/h加速タイムは大幅に短縮された。複数のメディアやユーザーによる実測値では、おおむね6.3秒~6.6秒程度と報告されており、初代ZC6型の7秒台半ばから1秒以上速くなっている 。この加速性能の向上は、ZD8型の動力性能における明確な進化点だ。
ZD6との比較: 総じて、ZD8型は初代ZC6型の美点であった「運転の楽しさ」や「優れたハンドリング」を継承・深化させつつ、最大の課題であったエンジンパワー(特にトルク)を大幅に向上させたモデルとして評価される 。街乗りでの扱いやすさや乗り心地の面でも改善が見られ、よりオールラウンドなスポーツカーへと進化した。
ZD8型BRZは、初代が確立した「手の内感のあるFRスポーツ」というキャラクターを堅持しつつ、動力性能とシャシー性能をバランス良く引き上げることで、より多くのドライバーにとって魅力的で完成度の高い一台となった。これは、スバルがBRZというモデルに寄せられる期待を深く理解し、真摯に開発に取り組んだ結果である。
安全装備と燃費
二代目BRZ (ZD8) は、走行性能の向上だけでなく、安全装備と環境性能にも配慮がなされている。
安全装備 (アイサイト): ZD8型における安全装備の最大の進化は、スバル独自の運転支援システム「アイサイト」の採用である 。
- AT車への標準装備: 発売当初より、AT車にはアイサイトが標準装備された。これには、プリクラッシュブレーキ(衝突被害軽減ブレーキ)、全車速追従機能付クルーズコントロール、後退時ブレーキアシスト、AT誤発進・誤後進抑制制御などが含まれる 。
- MT車への搭載: 当初MT車にはアイサイトは搭載されていなかったが、市場からの強い要望に応える形で、2023年9月発表のCタイプ以降の一部改良でMT車にもアイサイトが搭載されるようになった 。MT車用アイサイトには、プリクラッシュブレーキ、後退時ブレーキアシスト、車線逸脱警報、ふらつき警報、先行車発進お知らせ機能などが含まれるが、全車速追従機能付クルーズコントロールは非搭載となる。
- その他の先進安全技術: 全グレードにステアリング連動ヘッドランプやスバルリヤビークルディテクション(後側方警戒支援システム)が標準装備され、AT車にはハイビームアシストも備わる 。
初代ZC6型では搭載が見送られたアイサイトがZD8型で採用されたことは、BRZがピュアスポーツカーでありながらも、現代のクルマに求められる安全性能への配慮を怠らなかったことを示す。特にMT車への搭載実現は、技術的なハードルを乗り越え、より多くのユーザーに安全を提供しようとするスバルの意志の表れであり、市場からも高く評価される。ただし、一部レビューでは、搭載されるアイサイトが必ずしも最新バージョンではないという指摘もある 。
燃費: 2.4Lへと排気量が拡大されたFA24エンジンを搭載するZD8型だが、燃費性能も考慮されている。
- カタログ燃費 (WLTCモード):
- Sグレード (MT): 11.9 km/L
- Sグレード (AT): 11.7 km/L
- Rグレード (MT): 12.0 km/L
- 実燃費:
- e燃費のデータによると、MT車で平均11.25km/L~11.3km/L、AT車で平均11.0km/L程度と報告されており、カタログ燃費との乖離は比較的小さい 。
- ユーザーレビューでは、運転スタイルによって変動するものの、郊外走行などでは10km/Lを超える燃費を達成している例も多く見られる 。
排気量アップによる動力性能の大幅な向上を考慮すれば、ZD8型の燃費性能は健闘している。スポーツカーとしての楽しさを提供しつつ、日常的な使用における経済性にも一定の配慮がなされている点は、BRZの魅力の一つである。
第三章:歴代BRZの比較と総合評価

初代(ZC6)と二代目(ZD8)の主要な相違点と進化のポイント
初代BRZ (ZC6)と二代目BRZ (ZD8)は、共に「誰もが愉しめる究極のFRピュアスポーツカー」というコンセプトを共有しつつも、その実現方法において明確な進化と相違点が見られる。
- エンジン性能: 最大の違いはエンジンだ。初代ZC6は2.0LのFA20型を搭載し、高回転域での伸びやかさが魅力だったが、中低速トルクの細さが指摘されることもあった 。一方、二代目ZD8は2.4LのFA24型へと排気量を拡大し、最高出力・最大トルク共に大幅に向上。特に最大トルクは発生回転数が3700rpmと低められ、全域でのトルクアップが図られた結果、街乗りでの扱いやすさからスポーツ走行時の力強さまで、動力性能が格段に向上した 。0-100km/h加速タイムも、初代の7秒台半ばから二代目は6秒台前半へと大幅に短縮されている 。
- シャシー剛性とハンドリング特性: 二代目ZD8は、スバルグローバルプラットフォームの知見を活かしたインナーフレーム構造や構造用接着剤の採用により、ボディ剛性が飛躍的に向上した(フロント横曲げ剛性約60%向上、ねじり剛性約50%向上)。これにより、ステアリング応答性、旋回時の安定性、トラクション性能が初代から格段に進化し、よりドライバーの意のままに応えるシャープで懐の深いハンドリングを実現する 。
- 内外装のデザインと質感: エクステリアは、初代の軽快なイメージを踏襲しつつ、二代目はより低くワイドなスタンスと抑揚のある面構成で、力強さと洗練度を増した 。インテリアも、二代目はデジタルメーターの採用や素材の見直しにより、初代に比べて質感と先進性が向上しているが、依然として実用性よりもドライバー中心の空間設計が優先される 。
- 安全装備の充実度: 初代ZC6には先進運転支援システム(ADAS)が搭載されなかったのに対し、二代目ZD8ではAT車に「アイサイト」が標準装備され、後期モデルではMT車にも展開されたことは大きな進化である 。これにより、スポーツカーとしての楽しみに加え、現代のクルマに求められる安全性能も大幅に向上した。
各世代のレビューに見る共通の魅力と課題
歴代BRZのレビューを概観すると、世代を超えて共通して評価される魅力と、同様に指摘され続ける課題が見えてくる。
共通の魅力:
- FRならではの運転の楽しさ: 軽量ボディ、低重心、FRレイアウトが織りなすダイレクトで意のままに操れるハンドリングは、初代から二代目に至るまでBRZ最大の魅力として一貫して高く評価される 。
- 優れたハンドリングバランス: エンジンパワーに頼るのではなく、シャシー性能とバランスで走る楽しさを追求する姿勢が支持される。
- カスタマイズの幅広さ: 豊富なアフターパーツが存在し、オーナーが自分好みに育てていく楽しみがある点も、BRZカルチャーの重要な要素である 。
共通の課題:
- 実用性: 2+2シーターではあるものの、後席の居住性は限定的で、実質的には2シーター+αと捉えるべきであるという意見が多い 。積載性もスポーツカーとしては標準的だが、日常的な利便性を重視するユーザーには物足りない場合がある。
- 内装の質感: 初代、二代目ともに、価格帯を考慮すると内装の質感がややチープであるという指摘が一部で見られる 。二代目では改善が見られるものの、依然として課題として残る部分もある。
- エンジンサウンド: 水平対向エンジン特有のサウンドは好みが分かれる部分であり、サウンドクリエーターによる演出についても評価は一様ではない 。
これらの共通点は、BRZがどのようなクルマであり、どのようなユーザーに愛されてきたかを示す。走りの本質を追求する一方で、実用性や質感といった面では、ピュアスポーツカーとしての割り切りが見られる。
BRZがFRスポーツ市場に与えた影響と今後の展望
スバルBRZとトヨタ86の登場は、2010年代初頭において、手頃な価格で購入できる本格FRスポーツカーというカテゴリーを再活性化させる上で非常に大きな役割を果たした。高性能化・高価格化が進んでいたスポーツカー市場において、運転の楽しさを純粋に追求できるモデルとして、若い世代を含む幅広い層のクルマ好きに支持された。
この成功は、他のメーカーにも影響を与え、コンパクトFRスポーツの可能性を再認識させるきっかけとなった可能性がある。
二代目ZD8型への進化は、初代が築いたコンセプトを堅持しつつ、動力性能や安全性能といった現代の要求に応える形で着実に熟成を遂げたことを示す。特にFA24型エンジンの採用によるトルク特性の改善は、初代のウィークポイントを克服し、より多くのドライバーにとって魅力的な存在となった。
今後の展望としては、自動車業界全体が電動化へと大きく舵を切る中で、BRZのような内燃機関を搭載したピュアスポーツカーがどのような道を歩むのかが注目される。スバルは電動化技術の開発も進めているが、BRZが持つ「人馬一体の操る楽しさ」という本質的な価値を、将来的にどのような形で継承・発展させていくのか、その動向から目が離せない。
ファンの間では、さらなる熟成や、あるいは電動化技術を取り入れた新たなFRスポーツの登場を期待する声も聞かれる。
結論:スバルBRZのレガシーと未来
スバルBRZは、初代ZC6型から二代目ZD8型へと進化する中で、一貫して「誰もが愉しめる究極のFRピュアスポーツカー」という開発思想を追求してきた。水平対向エンジンを低く搭載することによる「超低重心パッケージング」と、FRレイアウトならではの素直なハンドリングは、BRZの揺るぎない個性であり、多くのドライバーに「人馬一体」となる運転の楽しさを提供し続ける。
初代ZC6型は、そのピュアな操縦性とカスタマイズの自由度で確固たる地位を築いた。2016年のビッグマイナーチェンジでは、エンジントルクの改善やシャシー性能の向上など、市場の声に応える形で大幅な進化を遂げ、その魅力をさらに高めた。
二代目ZD8型は、初代の美点を継承しつつ、FA24型エンジンによる動力性能の大幅な向上、ボディ剛性の飛躍的な強化、そして待望の運転支援システム「アイサイト」の搭載(AT車および後期MT車)など、全方位にわたる深化を達成した。これにより、BRZは現代のスポーツカーとしての商品力を一層高め、より幅広い層の期待に応えるモデルへと成長した。
レビュー記事を総合的に見ると、BRZは絶対的な速さや豪華さを誇るクルマではない。しかし、ドライバーの操作に忠実に応えるリニアな操縦性、限界領域でのコントロールのしやすさ、そして何よりもクルマを「操る」ことの根源的な喜びを与えてくれる存在として、専門家からもオーナーからも高く評価される。一方で、後席の居住性や内装の質感といった実用面では、ピュアスポーツカーとしての割り切りも散見される。
電動化という大きな変革期を迎える自動車業界において、BRZのような内燃機関を搭載したピュアFRスポーツカーの存在はますます貴重になっている。スバルBRZがこれまで築き上げてきた「走る愉しさ」というレガシーを、未来のクルマ作りにどのように活かしていくのか。
その挑戦と進化に、これからも多くのクルマ好きが注目し続けるだろう。スバルBRZは、時代が変わっても色褪せることのない、真のドライビングプレジャーを追求する一台として、その歴史を刻み続ける。
コメント