日本の自動車市場において、独自の進化を遂げた「軽自動車」。その中でも、電動開閉式ルーフを備えた2シーターオープンカーとして異彩を放つのが、ダイハツ・コペン(LA400K)である。
2014年に登場した現行型(2代目)は、初代の愛らしいデザインから一転、骨格構造を一新し、スポーツカーとしての本質を磨き上げてきた。
本記事では、現行コペンのスペックやオーナーレビューはもちろん、カタログには載らないマニアックな走行性能の秘密について、専門用語を優しく解説しながら深掘りしていく。初心者からメカ好きまで、コペンの「中身」を知りたい方はぜひ読み進めてほしい。
1. 現行コペン(LA400K)とは?:着せ替えできるスポーツカー

まずは現行コペンの全体像を整理する。最大の特徴は、ダイハツが新開発した骨格構造「D-Frame(ディー・フレーム)」と、外板パーツを樹脂化して交換可能にした「Dress-Formation(ドレス・フォーメーション)」だ。
4つのスタイルバリエーション
現行コペンには、基本構造を共有しながらデザインの異なる4つのモデルが存在する。
- Robe(ローブ): 先陣を切って登場した、現代的でアグレッシブなデザイン。
- XPLAY(エクスプレイ): 多面体のブロックを組み合わせたような、タフなSUVテイスト。
- Cero(セロ): 初代コペンを彷彿とさせる、丸目ライトのレトロモダンなデザイン。
- GR SPORT(ジーアール・スポーツ): トヨタのGAZOO Racingとコラボし、ボディ剛性と足回りを専用チューニングした本格スポーツモデル。
これらは単なる見た目の違いだけでなく、空力特性による走行フィールの微差も生んでいる(後述する)。
2. スペック詳細とメカニズム解説

ここでは、客観的な事実である「スペック」を確認し、そこから読み取れる車の性格を解説する。
主要諸元表(スペック表)
| 項目 | データ |
|---|---|
| 型式 | 5BA-LA400K |
| 全長×全幅×全高 | 3395mm × 1475mm × 1280mm |
| ホイールベース | 2230mm |
| 車両重量 | 850kg (MT) / 870kg (CVT) |
| エンジン型式 | KF型(直列3気筒DOHCターボ) |
| 最高出力 | 47kW (64PS) / 6400rpm |
| 最大トルク | 92N・m (9.4kgf・m) / 3200rpm |
| トランスミッション | 5速MT / 7速スーパーアクティブシフト付CVT |
| 駆動方式 | FF(前輪駆動) |
| タイヤサイズ | 165/50R16 |
| サスペンション(前) | マクファーソン・ストラット式コイルスプリング |
| サスペンション(後) | トーションビーム式コイルスプリング |
初心者のための用語解説①
【FF(エフエフ)】 フロントエンジン・フロントドライブの略。車の前にエンジンがあり、前のタイヤを回して走る方式。一般的に直進安定性が高く、車内を広く取りやすいが、スポーツカーとしては後輪駆動(FRやMR)の方がハンドリングが良いとされることが多い。コペンはFFだが、高度なチューニングで「曲がる楽しさ」を実現しているのが特徴だ。
【DOHC(ディーオーエイチシー)】 ダブル・オーバーヘッド・カムシャフトの略。エンジンの吸排気弁を動かす軸が2本ある構造。高回転までスムーズに回り、高性能エンジンの代名詞とされる。
エンジン特性の解釈:トルク重視の実戦型
搭載されるKF-VET型エンジンは、タントなどの実用車をベースに専用チューニングが施されている。スペック上の「64馬力」は軽自動車の自主規制値の上限だが、注目すべきは**最大トルクの発生回転数(3200rpm)**だ。
これはスポーツエンジンとしては比較的低い回転数である。つまり、街乗りやワインディング(峠道)の立ち上がりで、アクセルを少し踏むだけでグッと前に出る力強さを持っていることを意味する。絶対的な速さ(最高速度)よりも、日常域での「加速感」を重視したセッティングであると解釈できる。
3. 【マニアック解説】走行性能の真価を探る
ここからは、一般的なカタログ説明を超えて、なぜコペンが「本格的」と呼ばれるのか、その理由を構造面から深掘りする。
(1) 「D-Frame」がもたらした革命

初代コペンと現行型の決定的な違いは、ボディ構造にある。現行型は「D-Frame」という骨格だけで強度を担保する構造を採用した。
- 事実: 従来の車は「モノコック構造」といって、外側の鉄板(ボディ)も含めて強度を出していた。しかし、D-Frameは外板(ドアやボンネットなど)が樹脂製で、強度負担をしていない。
- 解釈: これにより、**「屋根を開けても閉めてもボディ剛性が変わらない」**という、オープンカーにとって理想的な状態を実現した。一般的にオープンカーは屋根を開けると剛性が落ちてハンドリングが曖昧になるが、LA400Kはその落差が極めて小さい。これは、ステアリングを切った瞬間の車の反応(応答性)が常に一定であることを意味し、ドライバーに絶大な安心感を与える。
【ボディ剛性(ボディごうせい)】 車の「硬さ」のこと。これが低いと、カーブを曲がる時に車体が雑巾のようにねじれてしまい、サスペンションが正しく動かない。剛性が高いと、サスペンションだけが綺麗に動き、意図した通りに車が曲がる。
(2) FFスポーツの限界に挑むサスペンション
コペンのリアサスペンションは「トーションビーム式」を採用している。
- マニアック視点: 多くのスポーツカーファンは、左右のタイヤが独立して動く「ダブルウィッシュボーン」などを好む傾向にあり、トーションビームは「コストダウンの実用車向け」と揶揄されることがある。
- コペンの場合: ダイハツはD-Frameの高い剛性を活かし、トーションビームの設定を徹底的に煮詰めた。特にリアのグリップ(路面を掴む力)を意図的に高く設定しており、**「リアが粘ることで、安心してフロントを切り込める」**という特性を作り出している。
- ビルシュタインの採用: 上級グレード(Robe Sなど)には、ドイツの名門ビルシュタイン製のダンパーが採用されている。これは単に硬いだけでなく、微細な振動を即座に収束させる能力に長けており、タイヤの接地感をドライバーの手のひらに伝える解像度が高い。
(3) 空力特性とハンドリング
「Robe」や「GR SPORT」のデザインには、機能的な意味がある。
特にリア周りの造形は、走行風を綺麗に剥離させ、高速走行時に車体が浮き上がるのを防ぐ効果(リフトの抑制)を狙っている。コペンは軽自動車規格のためトレッド(左右タイヤの幅)が狭く、横転や横風のリスクに対してシビアになりがちだが、空力によって地面に吸い付くような安定感を演出している点は評価に値する。
(4) スーパーLSDの恩恵(MT車)
メーカーオプション(一部標準)で用意されている「スーパーLSD(リミテッド・スリップ・デフ)」は、スポーツ走行をするなら必須級の装備だ。
【LSD(エルエスディー)】 カーブ中に内側のタイヤが空転するのを防ぎ、地面に動力を伝え続ける装置。これがないと、急カーブでアクセルを踏んでもタイヤが空回りして前に進まない。
コペンのLSDは効きがマイルドで扱いやすい。これにより、カーブの出口でアクセルを早く踏み込むことができ、「FF車は曲がらない」という先入観を覆すような、フロントタイヤがグイグイと内側に切れ込んでいく感覚(タックインに近い挙動)を楽しめる。
4. オーナーレビューまとめ:事実と感情

実際のオーナーや試乗レビューから見えてくる「生の声」を、ポジティブ・ネガティブ両面からまとめる。
良い評価(Positive)
- 「剛性の塊感がすごい」
- 多くのオーナーが、段差を乗り越えた時の「ドスン」という収まりの良い音に剛性を感じている。屋根を開けてもミシリとも言わないボディは驚異的とされる。
- 「法定速度で楽しい」
- 200km/h出る車ではなく、40km/h〜60km/hで流しているだけで、オープンエアと適度なエンジン音により高揚感が得られる。
- 「GR SPORTの完成度が異常」
- トヨタとのコラボモデルは、ボディ補強がさらに追加されており、「クラスが一つ上がったようなしっとりした乗り心地」と絶賛されている。
厳しい評価(Negative)
- 「突き上げが激しい」
- 特に初期型(2014年〜2015年頃)のモデルはサスペンションが非常に硬く、街乗りでは跳ねるという意見が多い。年次改良で徐々にマイルドになっているが、普通の軽自動車の感覚で乗ると驚くレベルだ。
- 「積載性は絶望的(オープン時)」
- 屋根を閉めている時はトランクにゴルフバッグが入るほど広いが、オープン時はトランクの大半が屋根で埋まるため、ハンドバッグ程度しか入らない。
- 「エンジンの高揚感が足りない」
- ライバルだったホンダ・S660と比較されがちだが、S660のような高回転まで突き抜けるサウンドに比べると、コペンのエンジンは実用的で事務的な音がするという意見もある(マフラー交換で改善可能)。
5. 海外からの評価:ガラパゴスの奇跡

軽自動車(Kei Car)は日本独自の規格であるため、現行コペン(LA400K)は基本的に日本国内専用モデルである(一部、インドネシア等での現地生産・販売はあるが欧州輸出はされていない)。しかし、海外のカーマニアからの注目度は高い。
欧州・北米ファンの反応(YouTubeやフォーラム等の反応まとめ)
- 「Miniature Sports Car」としての称賛
- 特にイギリスなど、ライトウェイトスポーツカーの文化がある国の人々は、「これほど小さく、安価で、電動ハードトップを備えた本格的な車は世界中どこにもない」と驚愕する。
- 「Why Japan Only?」
- 初代コペン(1.3Lエンジン搭載版)が欧州で販売されていた経緯もあり、「なぜ新型は660ccのみで輸出しないんだ」という嘆きの声が多い。
- デザインへの評価
- Robeのデザインに対し「怒った掃除機」とジョークを言う層もいる一方、着せ替え可能なボディ構造(Dress-Formation)については「未来的なアイデアだ」「3Dプリンターで作ったパーツをつけたい」と、DIY文化の根強い海外層から高い関心を集めている。
海外評価から読み取れるのは、コペンが**「日本が誇るべき精密機械のおもちゃ」**として、羨望の眼差しで見られているという事実だ。
6. まとめ:コペンは「愛すべき相棒」になれるか

現行コペン(LA400K)の走行性能を調査・分析した結果、以下のことが言える。
- 剛性は本物: D-Frame構造は、軽自動車の枠を超えたシャーシ性能を実現している。
- 走りはFFスポーツの王道: 安定したリアと、LSDを含めたトラクション性能で、誰が乗っても速く、安全に楽しめる。
- 乗り心地には覚悟が必要: スポーツカーとしての硬さはあるが、それを補って余りある開放感がある。
この車は、単なる移動手段ではない。屋根を開けて風を感じ、路面の状況をお尻で感じ取りながら、意のままに車を操る喜びを教えてくれる「相棒」である。
スペック表の数字だけでは分からない、ステアリングを握った瞬間に伝わる「ガッシリ感」と、コーナーを抜ける時の「爽快感」。これこそがコペンの真のスペックと言えるだろう。
もしあなたが、退屈な日常にスパイスを求めているなら、コペンは間違いなく最良の選択肢の一つになるはずだ。

