エルスウェア紀行の魅力とは?唯一無二の音楽世界と「どこでもない場所」への旅

音楽

「どこでもない場所」への旅。そんな音楽体験を、あなたは求めていないだろうか。もしそうなら、今こそ「エルスウェア紀行」の音楽に触れるべきだ。ボーカル・ギターの安納想と、マルチプレイヤーのトヨシから成るこの二人組は、我々を未知の音楽体験へと誘う。彼らの奏でる音は、単なるジャンルの融合ではない。それは、映像的でリリカルな歌詞世界と、複雑かつ美しいメロディが織りなす、唯一無二の芸術なのだ。

「どこでもない場所を旅する記録」という名の羅針盤

エルスウェア紀行。その名は、彼らの音楽そのものを指し示す。「どこでもない場所を旅する記録」という深遠なコンセプトは、安納想が幼少期に祖父と聴いたラジオ番組『JET STREAM』に源流を持つ。「実際に旅をせずとも、音楽を通して様々な場所へと思いを馳せる」。この精神こそ、特定のジャンルに縛られず、自由な音楽表現を追求する彼らの核である。

「エルスウェア」は「どこでもない場所」、「紀行」は「旅の記録」。それは物理的な場所を超え、感情や心象風景、時間といった抽象的な領域への旅だ。彼らのライブは、観客が「安心して一人になれる」空間。そこで我々は、自身の記憶や感情と対峙し、新たな発見をする。聴くたびに新たな側面を見せる、まるで生き物のような楽曲たち。それこそが、エルスウェア紀行が誘う「どこでもない場所」への旅なのだ。

二人が紡ぐ、魔改造された音の万華鏡

エルスウェア紀行の魔法は、安納想とトヨシ、二つの才能の化学反応から生まれる。安納想。彼女が紡ぐ叙情的で映像喚起力のある歌詞と、聴く者の心を掴む歌声は、ユニットの魂だ。かつて「ヒナタミユ」として活動した彼女は、エルスウェア紀行の始動と共にその名を改めた。

対するトヨシは、ギター、ドラム、コーラスはもとより、楽曲のメインコンポーズ、アレンジ、さらにはレコーディングエンジニアリングまで手掛ける驚異のマルチプレイヤー。安納の感覚的な詩世界と、トヨシの論理的な楽曲構築能力。この二つが補完し合い、時に火花を散らしながら、エルスウェア紀行だけの独創的なサウンドを編み上げていく。

彼らの音楽は、しばしば「魔改造シティポップ」あるいは「令和のニューミュージック」と称される。70年代シティポップの洗練を纏いながらも、ロック、フォーク、パンク、プログレ、ブラックミュージック、ゴスペル…ありとあらゆるジャンルを大胆に飲み込み、独自の解釈で昇華する。トヨシ曰く「混ぜようというよりは混ざっちゃっている感覚」。このジャンルレスな挑戦こそが、「どこでもない場所」を旅する彼らの音楽そのものなのだ。

緻密な「仕掛け」が施された楽曲群は、聴くたびに表情を変える。リスナーが能動的に「旅」をする余地を残す。これこそが、彼らの音楽が持つ奥深さと、尽きることのない魅力の源泉なのである。

ヒナタとアシュリーからの羽化、より深淵へ

エルスウェア紀行の現在地を理解するには、前身ユニット「ヒナタとアシュリー」からの変遷を辿る必要がある。安納想(当時ヒナタミユ)のシンガーソングライター活動にトヨシが編曲・作曲で参加する形で発展したこのユニットは、メンバーの変動などを経て、方向性に迷いを抱えていた。

2020年8月、「エルスウェア紀行」として再始動。これは単なる改名ではなかった。ヒナタとアシュリー時代は安納が作詞作曲の主導権を握っていたが、エルスウェア紀行ではトヨシの作曲家・プレイヤーとしての側面が前面に押し出される。トヨシが生み出すリフや激しい要素、楽器に焦点を当てたサウンドに安納のメロディが乗ることで、より複雑で「ちょっと変な曲」――つまり、他に類を見ない独創的な楽曲群が誕生したのだ。

この変化は、安納の歌詞にも影響を与えた。無意識に明るい曲を作ろうとしていた彼女は、トヨシのサウンドに呼応し、内なる「禍々しさ」や「鋭さ、怒り、爆発的なもの」といった、より深く暗い感情をも表現するようになる。この変革こそ、エルスウェア紀行が「どこでもない場所」の、さらに深遠で複雑な領域へと踏み出すための、重要な一歩だったのだ。

言葉の力:「さみしくて、あまくて、つよい。」

エルスウェア紀行の旅路を照らす灯台、それは安納想が紡ぐ歌詞の世界だ。「さみしくて、あまくて、つよい。」このキャッチフレーズに象徴されるように、彼女の言葉は人間の内面に深く分け入り、複雑な感情の機微を巧みに描き出す。

「鬱夢くたしかな食感」。この曲は、安納自身が見た悪夢の生々しい感覚、「確かに食感があった」という記憶から生まれた。彼女の内なる「禍々しさ」や「複雑な感情が常に混在してるもの」を表現したいという渇望が、そこにはある。単に美しい言葉を並べるのではない。人間の心の奥底にある、時に目を背けたくなる感情とも真摯に向き合う。

2025年5月リリースの「とわの祭り」では、「時間は不可逆的なものではなく 過去・未来・現在がただ離散的に存在するものかもしれない」という独自の死生観・時間論を展開。「大切な出会いに別れはなく 出会えた時点でとわに続く祭りのようなものなのかもしれない」。切なくも希望に満ちたメッセージが、胸を打つ。

安納の歌詞は、「私とあなた」という閉じた関係性に留まらない。より俯瞰的な視点から世界を捉えようとする。「センサーが敏感な器」「外から眺めている感覚の曲が多い」と彼女は自己を分析する。この距離感と内省的な眼差しが、楽曲に独特の浮遊感と普遍的な共感力をもたらす。彼女の言葉は、聴き手一人ひとりの「どこでもない場所」への旅を、静かに照らし出すのだ。

響き渡る評価、広がる認知

エルスウェア紀行の独創性と精力的な活動は、メディアや音楽業界からの注目を着実に集めている。「鬱夢くたしかな食感」はTBS系『よるのブランチ』や全国音楽情報TV『MUSIC B.B.』のテーマソングに。「普通の毎日」はCMソングとして、「イマジン」はtvk『関内デビル』のエンディングテーマとして、我々の日常に溶け込んできた。

特筆すべきは、音楽プロデューサー川谷絵音による絶賛だ。テレビ朝日系『EIGHT-JAM』の企画「プロが選ぶ年間マイベスト10曲」2024年版で、エルスウェア紀行の「素直」を第8位に選出。「キリンジのコード感などを今の時代に合わせて昇華していて、久々にドストライクな『キリンジチルドレン』を見たと感じています」と評し、安納の歌声を「美しい倍音で、ウィスパー成分が多いのにくっきりと粒立っている天性のもの」と讃えた。専門家からのこの評価は、彼らの音楽的達成度と輝かしい未来を明確に示している。

アルバム『エルスウェア紀行』はBillboard JapanのDownload Albumsチャートにも名を連ね、その音楽が着実にリスナーの心を掴んでいることを証明した。音楽専門メディアでのインタビューや特集記事も後を絶たない。彼らの旅路は、確実に多くの人々を巻き込み始めている。

個々の輝きが、ユニットを照らす

エルスウェア紀行という名の船を動かしながらも、安納とトヨシはそれぞれの航路も持つ。安納想はソロ活動も継続。CM歌唱や他アーティストへの歌詞提供に加え、Webカルチャーマガジン『StoryWriter』では自由詩「夢幻逃避行」を連載。この詩作活動は、エルスウェア紀行の歌詞が持つリリシズムの豊かな源泉となっている。

一方、トヨシはエルスウェア紀行のサウンド構築の心臓部だ。プログレッシブロックへの傾倒も窺わせる彼の多様な音楽的バックグラウンドが、複雑なアレンジメントの基盤を成す。彼の創作エネルギーは、エルスウェア紀行という場で遺憾なく発揮されている。

そして、彼らの音楽をさらに高い次元へと押し上げるのが、千ヶ崎学(KIRINJI)、sugarbeans、qurorawaといった実力派サポートミュージシャンたちの存在だ。「とわの祭り」のレコーディングでは、千ヶ崎のベース、sugarbeansのピアノ、押鐘貴之ストリングスが、楽曲に豊かな彩りと深みを与えた。特定の、そして高い技術を持つミュージシャンを起用する事実は、楽曲のクオリティと複雑性に対する彼らの揺るぎないこだわりを物語る。個々の活動とユニットとしての共同作業、そして外部の才能との化学反応。そのすべてが、エルスウェア紀行の「旅」を、より多層的で魅力的なものにしているのだ。

まだ見ぬ地平へ、旅は続く

エルスウェア紀行の「どこでもない場所を旅する記録」は、今この瞬間も紡がれている。2024年10月の2ndフルアルバム『ひかりを編む駐車場』リリースと初の全国ツアー成功は、彼らの旅における大きな灯台となった。その後も「冷凍ビジョン」「とわの祭り」とシングルをコンスタントに発表し、その創作意欲はとどまることを知らない。

2025年6月には渋谷CLUB QUATTROでの単独公演「夢幻飛行 2025」、そして「SAKAE SP-RING 2025」への出演。彼らの音楽を直接浴び、その世界観を共有する機会は、これからも続いていく。

「どこにもない音楽を作りたい」「オリジナルを確立したい」。彼らの言葉には、強い意志が宿る。それは既存のジャンルに囚われず、エルスウェア紀行でしか表現し得ない、唯一無二の音楽世界を追求するという決意の表れだ。安納は、「鬱夢くたしかな食感」のような激しい楽曲の後、「めちゃくちゃキャッチー」で「穏やかな曲」を録るかもしれないと示唆する。彼らは自身のスタイルに固執することなく、常に新しい音の領域を探求し、表現の幅を広げようとしているのだ。

この一貫した創作活動、精力的なライブ、そして「オリジナル」への渇望。エルスウェア紀行は、自信を持って芸術的探求を拡大している。彼らの旅は、確立されたアイデンティティを深化させつつ、常に未知の領域へと踏み出すダイナミズムを内包しているのだ。

さあ、あなたもエルスウェア紀行の旅へ

エルスウェア紀行。彼らは現代日本の音楽シーンに、燦然と輝くオリジナリティを刻みつけている。「どこでもない場所を旅する記録」というコンセプトは、安納想の「さみしくて、あまくて、つよい。」歌詞世界と、トヨシのジャンルレスで予測不可能なサウンドスケープによって、鮮やかに具現化される。

安納の文学的なリリシズムと繊細なボーカル。トヨシの卓越した作曲・編曲能力と多楽器を操る技術。二つの才能が結びつき、聴く者を日常から非日常へ、現実から夢想へと誘う「旅」そのものを創り出す。

彼らの旅は、まだ終わらない。アルバム『ひかりを編む駐車場』とその後の活動は、彼らが新たな地平へと力強く踏み出した証だ。次に彼らが我々をいかなる「どこでもない場所」へと誘い、どのような「記録」を聴かせてくれるのか。その未知なる旅路への期待感こそが、エルスウェア紀行の尽きることのない魅力の源泉なのである。

今こそ、エルスウェア紀行の音楽に耳を澄ませてほしい。きっとあなたも、終わりなき音の旅路の虜になるはずだから。

コメント

タイトルとURLをコピーしました